同じような過ちを繰り返さないことが大事だ。
先に他人が失敗してくれると、有難いことに自分のミスを回避できるものである。
<大先輩の重大なミス>
贈収賄事件。
贈賄者・収賄者とも自白しており、供述は一致していた。
犯行場所は、有名な料亭の「松の間」であった。
掛け軸や壺、室内の様子について、両者の供述は詳細まで合致していた。
しかし、この事件の判決は、無罪であった。
「松の間」が犯行日とされた頃は存在せず、その後増築された部屋であることを弁護人が立証したのである。
<小先輩の重大でないミス>
覚せい剤の譲渡事件。
譲受人Xの尿からフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩が検出され、Xは、覚せい剤の使用により既に起訴されていた。
使用した覚せい剤は、Aホテルの一室で、Yから買い受けた旨供述していた。
その後、Yが逮捕されたが、覚せい剤は所持しておらず、採尿の結果も陰性だった。
彼も、Aホテルの一室でXに覚せい剤を譲り渡したことを自白したため、起訴された。
しかし、判決は無罪。
犯行の前後約1か月間、Aホテルは海外の学生たちが集団で滞在したため満室であり、他の一般客が使うことができなかった事実が判明したため。
<私の似たような体験>
公職選挙法違反(買収の罪)。
甲は、乙から自宅に菓子が届けられ、菓子箱の中に百万円が入っていたと供述。
しかし、乙は、甲の自宅へ赴き、新聞の折込み広告に現金百万円をチマキのように包み込み、手で投げて渡したと供述した。
担当検事であった私は、まず、当日の交通即決処理により保管されていた現金百万円を取調室に持ち込んだ。
新聞の折込み広告は、段ボール箱いっぱいに各種のものを用意した。
そのうえで、乙に「百万円チマキを作ってみろ」と言ったところ、乙は、ものの数秒で百万円チマキを再現した。
私は、甲に対して、厳しい取調べを行った。
「犯行は二度あったと認められる。したがって、現金二百万円の買収事件として起訴することになる。」と告げた。
甲は、あわてて供述を覆した。「チマキの一回だけです」と。
私は、両者の供述が一致したチマキの件だけを起訴した。
本当は二度の受け渡しがあったに相違ないとは思ったが・・・
もちろん、甲と乙は、起訴事実どおりに有罪となった。
<失敗談をよく聞こう>
他人の失敗談は、実に興味深いし、役に立つ。
自分が失敗することはないと思っていても。
おかげで、自分が判断ミスをしないですむこともあるのだ。